シュタデス

 

 

フランケン=シュタインという後輩について俺が特筆すべき事は何もない。というか長い間相方として時間を共有してきた俺でさえ、分からない事が多かった。
明らかにヤバい量の血をだらだら流していても軽いノリで笑っているし、かと思ったら急に押し黙って何かを考えている。何を考えているんだと聞くとさらりと完全犯罪の方法を考えているんですと言う。俺が驚いて言葉を失って固まっていると、「なーんて冗談ですよ本気にしちゃいましたあ?」とふやけた声でまた笑う。一般的な基準と絶対的にズレているのだ。
それでも一つだけ分かるのは、こいつは圧倒的に世界に退屈しているという事だった。可哀想な程に。どれだけたくさんの本を読み終えた時も、苦戦しながらも敵を倒した時も酷く残念そうに「つまらない」と言う。家で一緒に映画をみて俺が感動して泣いていると「今の面白いんですか?」と不思議そうに聞いてくる。俺は面白いんじゃない、今主人公が死んでしまって悲しいんだと言うと「ふうん。先輩はそういう所に泣くんですね」と乾いた声で言った。

「シュタイン、お前なぁその若さで枯れるなよ。いいか、世の中には酒と女っていう素晴らしいものがあるだろうが」
誰もいない図書館で俺の隣に座って、別に好きで読んでいるんじゃないとでも言いたげな風に相変わらずつまらなそうに本読んでいたので見かねた俺はそう言った(因みに俺ははシュタインに強制的につられてこられたので退屈の度合いでいったらこの時は俺の方が大きいのだが)
「酒は飲めない。女は飽きました」
やはり興味の引く内容では無かったらしく、シュタインは本を閉じて無機質に答えた。
「お前は…」
思わず呆れた声を出した。しかし確かにシュタインは頭にネジやら身体中の傷やらぶっ飛んだオプションのせいで視線をよそへ外しがちになるが、よく見ると綺麗な顔をしていたので女に不自由したことがないようだった。(ただしそれはあくまで外見の話で、中身はとんだマッドサイエンティストでさらにはサディストであることを忘れてはならない)(腹立たしい事だ)そしてそのことは男の俺からみても納得することだった。白い肌は彫像のようだし、灰色の目は長い睫毛で縁取られて目もとに印象的な影を落としている。すらりと通る鼻筋とどこか退廃的な表情は年老いた職人が端正込めて作りあげたビスクドールのような趣さえあった。そして長く細い指は長い時間をかけて磨いた獣の骨のようだった。
海のような量の本を呼んでいて頭もいい、(黙っていれば)綺麗なのにどうしてそんなに退屈なのだろう。俺はそんな事をぼんやり思いながらシュタインの指を眺めていると、シュタインは俺の視線に気付いたようだった。
「…何、人の手見つめてるんですか?あっもしかして昨日の夜の事思い出しちゃいましたか?」
シュタインは検討違いな推測をしてまたあの浮わついた笑顔を浮かべる。
「馬鹿」
「この指で感じてる先輩かわいかったですよ」
「、っ死ね!」
艶かしいもの言いに思わず思い出してしまい、恥ずかしくなって拳を出すが、シュタインはさらりと避けてしなだれかかり、唇を押し付けてきた。突然の事に驚いて口を開いた瞬間、獲物のを捕らえる蛇のような速さで舌が侵入してくる。
「…っ、ふ…ん」
シュタインの熱い舌が口内を貪るように蹂躙する。抵抗しよう顔を動かそうととするも、がっしりと顎を固定されて微動だにしない。さすがに息が苦しくなって胸板を叩くと、シュタインは満足したようにやっと顔を離した。
「、っお前ここ図書館だろ!!」
「こっちの方が楽しいじゃないですか」
「楽しくねぇよ!」
「俺にとってタバコとあんたがこの退屈な世界を生きのびる理由です」
「…楽しい事なんて他にたくさんあるだろ」
「ありませんよ」
シュタインはどこまでも無感動な声で、だけどどこか悲しそうな様子でそう言って、俺の手を握ってくる。気温はそんなに寒くはないはずなのにシュタインの手は氷のように冷たかった。
「あるって」
そして俺は少しでも長くこいつを繋ぎ止めれるようにと心持ち強く握りかえすとシュタインは驚いたようだが、目を細めて
「顔赤いですよ」
と柔らかく笑う姿はとても人間らしいなと思った
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