メデュシュタ。捏造
 
 
 
「行くの?」
「行くよ」
「私を置いて?」
「君を置いて」

夢から覚めたら知らない場所にいた。傍らにはマリーとクロナがいて、帰ろうと言った。ここまでどうやって来たのか記憶はなく、覚束ない頭で辺りを見渡す。遠く離れた所にメデューサがいて、どことなく悔しそうな悲しそうな顔をしていたその横顔は子供の姿なのにどこか妙に大人びていて、俺はぼんやりと元の姿を思い浮かべた。


もう大丈夫だから、と彼等に言った後、それから俺はもう一度彼女のいる部屋に戻った。文字通り痛々しく、傷だらけになった少女は薄暗い部屋にぽつねんと座っていた。時折吹き抜ける生暖かい風邪は肌を撫でるよう舐めるようににからみつく、まるで蛇のように。俺は何も言わずに少女の細い背中を見つめる
「…なにしに来たの」
振り返らずに彼女は言った。呟いた声は反響して思ったより大きな音になった。
「お別れを言いに。君には世話になったようだから」
「…皮肉かしら」
「いや、君は俺の最大の理解者だったから」
そこで彼女はようやくこちらを見た。その顔はやはり大人びていた。白い肌が浮かびあがる。
「…新しい世界に興味はなかったわ。ただ今の世界が退屈だっただけ」
「わかるよ」
「あのとき死んでも良かったのよ、本当よ?」
「うん」
彼女の言いたい事は手にとるようにわかった。(最大の理解者というのはもしかしたら願望なのかもしれないけどそれは俺にっては事実だったから。)圧倒的なまでに退屈な世界、それでいて自分を取り巻く感情は膨大だった。だから尽きる場所を探していたのだろう。受け止める事に精一杯で、守り方がわからなかった。失い続けてきたのだ。俺も彼女も。(似ていたのだ)(欠落も欠乏も似すぎていて、埋めることができないぐらいに)
「死ねるタイミングを見逃して、おめおめと生き残りこんな姿になって、」
そういって彼女は細い腕を持ち上げる
「俺は可愛いと思うけどね」
「醜い、無様よ。馬鹿みたい。」
彼女はだけど、と言った
「あなたに会いに戻ってきた」
「……」
「あなたに会うためにまたむざむざと生き恥を晒しに戻ってきた。わかってたのに、魔女と職人なんて…本当に馬鹿みたい。だけど離れたくなかった。一人は、嫌だわ」
自分に語りかけるように彼女は言った。うなだれるように下を向いていて顔は見えなかった。煙草を吸おうとポケットを探したが見つからなかった。

「狂気の海に浮かんでいたとき君の夢を見たよ」
「そう」
「なかなか悪くなかった」
彼女は顔を上げて小さく微笑んだ。
「私も、幸せだったわ」
そしてどちらからともなく歩みより、キスをした。唇は震えるぐらい冷たかった。
「さようなら」
と彼女は言った
俺は何も言わなかった。

ずっと失い続けてきた。ひたすらさよならを言ってきた。長いお別れ、長い夢。
ようやく会えたもう一人の自分とも呼べる、理解者を失う意味は、あるのだろうか?

…わからない。
(次に夢で会えたらのなら、何を話そう)







goodbye, goodbye to me,
goodbye, goodbye,
goodbye, goodbye,
goodbye discrepancy,
RADWIMPS/グーの音
 
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