仔シュタ→デス

 
ソファーベッドに座った先輩が腫れた頬を冷やしている。
「まぬけ面」
「何か言ったか?」
そう言って体を動かさないまま睨みをきかす
「浮気とか二股とかもうやめたら?」
「それはお前、愛ってもんを知らないからだよ」
「そんなもんわかりたくもない」
俺にとって愛はコーヒーを煮しめたような色をしていて、軽薄で劣悪で、何より醜悪だった。
それなのにまるで命がけで発掘したピンクダイヤのように大切に、夜空に走る箒星のように、温室で丹念に育てあげられた薔薇のように美しく扱われるのが理解できなかった。
そう言うと同情か嘲笑、もしくは疑問符または嫌悪を浮かべる周りも我慢できなかった。
確かに軽快に愉快にピアノの音色が子猫が跳ねるように飛び回るように肌を優しく撫でる一面がある事を知っている。
だけど同時に子猫に爪を立てられる痛さも絶望も、悲しみも戸惑いも知っているのだ。コンデンスミルクのたっぷり入った甘い紅茶に含まれているのは毒しかない。情交なんてただの慰安だ。傷つくだけだろう。
「それはただの怠慢だ」
そうだ傷つけるのはいつだって死神の鎌、死に至る病なのだ。



(跪くほどの脆さ)
 
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