黄昏シーソーの続きっぽい

But,I miss you most of all,my darlling.



「君と俺は似ているね。」
心臓を貫かれて、という言葉がその時の心情に似合っていた。彼と私の相似性には前から薄々気が付いていた…なぜだろう、表面を指でなぞるだけでは全く違うのに。(柔肌とツギハギが一緒なわけない)
「うん」
私はそう言うと、シュタインは楽しそうに笑った。
「分からないけど」
と私は言った
「やけに構築的で理路整然としていて可愛げのない子供ってことさ、俺たちは。」
「その説明って自分もけなしてるよね」
私は少なくともマゾではない。
「それでも君と俺は似ているんだ。特に甘え方がわからない所とかね。だけど確かに基本的には全然似てないよ」
当たり前だ。もし私と博士がそっくりだったのならソウルは今頃泣いてる
「それ先輩に対しても酷くない?」
とシュタインは笑った。どちらかといえば俺はサドだけど、とうそぶきながら。
「全然違うけどね。例えば昔の俺には誰も側にいなかったから」
「誰かいて欲しかったの?」
「いらないけどね」
とシュタインが即答した
「あなたのそういう寂しさは、似ていると思う」
私がそう言うとシュタインはまた柔らかく笑った。彼が笑うと何故だか少しだけ魂が融解する気分になる。でもどうせなら、とシュタインは言った
「俺は君になりたかった。先輩の子供として生まれて先輩に愛されて正しい道を歩むことができたのならどんなにいいんだろうって。」
私は何も言わなかった。シュタインは続ける
「俺は君が憎い、」
俺は君が憎くて堪らないんだよ、水面に移った自分の姿。ナルキッソスのように愛して飛び込んでしまうには臆病者すぎた。水仙にすらなれなかった、とシュタインは笑った。この人は笑うべき所でない時にも笑うのだ。
シュタインは息を吐いてふと黙りこくった後ごめん、言った。私は静かに首を横に振った。
「あなたが私を憎むのは、きっとパパを愛しているからなのね。苦しくなるほどに」
「決定的に拗れてしまうほどにね」
「私にはまだわからない」私は素直に打ち明けた。シュタインは私の頭を撫でる。
「美しいものを見な。優しい人を好きになりな。俺みたいになっちゃいけない。」
そう言って、シュタインは少しだけ悲しそうな顔をした
「好きになった人に優しくするために。」
そう言ってシュタインはそのまま私の手に触れた。
「私は人を愛した事はないけれど」

私はまだ人を愛した事はない。凍えた恋人に、血で濡れた心臓を差し出して、自らの身体を投げ入れて暖をとるようなこともしたこともなければ、愛しい人の首をかけて踊ったこともない、サロメのように
「愛すのなら、あなたみたいな人がいい」
そう言うと、シュタインは苦笑して、愛おしそうに私の頭を撫でてくる。頭から指先までじんと痺れる感覚がした。魂がまた少し柔らかくなった。
「君はまだ若い。きっと、カラフルな未来が広がっている。それをいたずらに灰色に、まばらなツギハギにするのは…あまり頭のいい選択肢ではないね」
そう言って顔をじっと見てくる。ああ、私の瞳の奥にあなたが見ているのはパパ?それとも自分自身ですか、ナルキッソス。
「いや、ただ君のことが心配なんだ。俺みたいな人を好きになりたい、なんて言い出すから」
とシュタインが言った。
「あなたは十分素敵な人だと思うけど」
「それはマカがまだ子供で、たくさんの経験をしてないからだよ。」
「パパが好きだから、とは言わないのね」
と私は言った。本当は言って欲しかった。
「君は恋に恋する子ではないけど、対象を俺にするのは間違っている」
私はシュタインの手を強く握り返した。何かの意志が込められた握り方だった。
「わからない」
「親愛を恋愛と捉えてるかもしれないって事さ。」
「確かにそうかもしれないけど」
愛というものがどんなものなのかわからない。首も小指も捧げられない。だけど胸の中の小さな太鼓が告げている。ポルカをマズルカを、髏の舞を舞えと。
「瞳を覗きこんで、悲しくなるのが苦しくなるのが恋なら」
なら踊りましょう。ダンスダンスダンス。タップの仕方はわからないけれど、初めなければ進まないから、手始めに先ずは挨拶だろうか。
「私は、」
私はゆっくり頭を下げると。地面に涙が数滴零れ、地面に染みを作った。


(最初の英文へ)
inserted by FC2 system