あれから二週間たったけど何も話さない日が続いた。慣れてみれば意外と寂しくなかった。
シュタインがマカと話をているのをみかけた。シュタインは今回の事をマカに相談しているのだろうか。マカは俺たちの関係を知っていて、痴話喧嘩の度にシュタインはマカに相談をしていた。俺は恥ずかしいから止めろと怒ったことがあるけどマカに「大人になりなよ」とたしなめられた。
だけど最初は、やはりと言うべきか、完全な拒絶だった




「不潔」
「…マカ」
目撃されたのが事の発端で、はぐらかすこともできず問いつめられて俺はあっさり白状した。パパとシュタインは付き合っているんだ。そう言うと、暫く黙っていたマカはぽつりとそのセリフを口にした。
わかっていたが、やはりかなり辛いものがあった。その場にいたシュタインが何か言いたそうにしたが、俺は目で制止した。
「なんで…ママと離婚した後に、博士と?ママは?もう好きじゃないの」
「ママの事はもちろん大好きだよ、でも」
「でも、何」
「…いや、言い訳はしない…だけどこれだけは分かってくれ、パパは今だってマカとママを愛してるんだ」
それは事実だった。そして自分でも分からなかったのだ。シュタインに迫られて、完全に流されていた。
「じゃあなんで離婚したの!?」
とマカは叫んだ。
張り裂けそうなぐらい、悲痛な声だった
「私…ずっと寂しかった。離婚なんてしてほしくなかった。私が悪い子だからパパとママは離婚しちゃうかと思ってずっと頑張ったんだよ、」
マカは興奮していて、泣いていた。それは本当に久しぶりの涙だった。そしてその時初めてのように気がついたんだ
「ああ、マカ」
「テストで100点とったんだよって、かけっこで一番をとったんだよって、真っ先に言いたかった。でもパパはあの時から離婚の事で忙しくてほめてくれなかった」
馬鹿みたいだ。今更気づいた。
ああ、気丈でしっかりとした俺の娘は守らなければいけない、小さな女の子だったのだと。
「離婚して、だから今度は寂しくなんかないよって一人でも大丈夫だよっ…、って、が、頑張って一番を取り続けたのに。」
顔を覆った小さな手に大粒の涙がたまっていった
「ママの所にいかないで、お、男の人…っ、博士の所に」

あれは優しくて賢こくて立派な、物分かりのよい、昔から文句の一つも言わなかった娘の最初で最後のわがままだったんだ。
「…嫌いっ」
マカは言いながら青ざめていった。自分でも酷いことを言ってると自覚があったんだ。マカの手は震えていた。むしろそんな事を言わせてしまってすまないと思った。だから否定はしなかった。あの子が何を言っても俺は受け止めるつもりだった

「不潔、気持ち悪い…っ」
だって、子供の全てを受け止めるのが、親の役目じゃないか。

「だいっきらい!!!」



シュタインには奥さんを愛していたいと言ったけど、本当はただ娘が怖かった。
出来がいいのを、手のかからないと捉えてしまって、自分が寂しい思いをさせてしまったことすら気づかなかった。
だから身勝手で自己満足だけど、泣かせてしまった責任を通したかったんだ。マカがもう完全に受け入れてくれている事は分かっている。だからこれは、本当に馬鹿みたいな親の勝手な意地のようなものだ。
マカにに言ったらきっと、自分が原因だと気に病むだろうから決して言うことはないけれど。

シュタインの事は、考えないようにした
 
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