「最近、パパと博士って何かあったの?」
分からない所があるからとシュタインに聞きに言ったついでにマカは何気なく口にした。
いつもだったら目配せをしたり(バレてないつもりだけど)つっつきあってたりするのに、最近はしてない。
また喧嘩でもしたのかと見当をつけていたが、返ってきた言葉は全くの予想外のものだった。
「フラれた」
「……………なんで?」
別れた?しかもフラれた?とマカはかなり驚いた。だってあの二人が?パパと博士が?なんで、確かに博士はたまに、いやいつもついていけない所があるけど。
「今、ちょっと仕方ないよな思ったでしょ」
「思ったけど。一周した」
「思ったの」
「博士ってろくでもないから」
「当たってるけどね」
とシュタインが笑った。
「だけど…私と大喧嘩した時は、それでも食い下がらなかったのに」
「なかなか見ごたえのある怒りかただったよね」
「掘り起こさないで」
マカはバツが悪そうに言う。あの時は混乱して本当に恥ずかしい事をしてしまった。
本当に恥ずかしい。そして感情を暴走させてしまったことを後悔した。そして今はまた同じくらいの混乱が襲っていたが、その事があったから比較的冷静でいれるわけだけど。いやそれでもまだ疑問符は全然とれていない
「まさか好きな人の娘とこんな相談をする日がくるとはね。年はとるもんだなしかし。」
「はぐらかさないでったら。ねえなんで?パパのこと大好きだったじゃない」
「今でも大好きだよ」
とシュタインは即答した。マカはますますわけがわからなくなる。
え?大人ってこういうものなの?といろいろな思考がぐるぐると巡る
「じゃあなんで…?博士はそれを受け入れたの」
「本気で惚れた人に分かれくれたて言われたら身を引くもんだよ」
「本気で惚れているなら食い下がるものよ。」
とマカが言った
「言うね。ほんと、長生きはするもんだけど…無理いうなよ。奪い取ることすらせずに、たた待ってたチキンにさ。」
とシュタインが笑った
「博士って執念深い人だと思ってた」
「執念深いし嫉妬深いよ」
「じゃあパパはなんで別れようとしたの?博士が納得したのはそれなりの理由があったからでしょ?」
「なんでだろうね」
とシュタインが言った。
はぐらかすのか分からないかった。それとも博士本人にも分からない事なのか。パパがそんなに一方的になるなんて。少なくともこんな理不尽な事はしないはずだ。
「もしかして」
しばらくしてマカが恐る恐る尋ねた
「私のせい?」
「違うよ」


たぶん、マカのためなのだろう、とシュタインは思っていた。
いろんな事を背負うにはまだマカは幼すぎる。だけどきちんと受け入れる強さをもってるがために、先輩は甘えてしまったのだ。甘えて、傷つけた。取り乱した。初めて理不尽な怒りをぶつけてしまうぐらい。だからきっと今更だとしても、守りたいのだ。
昔の俺はそれすらに嫉妬していたけれど俺も一緒に甘えていた。共犯者なのだ。
「でももしかしたら理由の一つになってるかもしれない。ねえ、本当に私はもう怒ってないよ」
「大丈夫だよ」
そういってマカの頭を撫でる。
「ねえ、嫌だよ。私のせいなんて。私、二人の事応援してるんだよ。」
とマカは不安そうに言った
「ご期待に添えられなくて残念だけど」
「…私のせいなんでしょ」
マカは賢い。もしかしたら俺の気持ちにすら気づいてしまうかもしれない。だからこそ、この子の才能は下らない周りの事情で歪ませるべきじゃない。
マカが取り乱した時、小さい時の俺をみているようで、俺は恐怖した。もしかしたら、このまま壊れてしまうかもしれない。俺みたいに。どうにもならないことに追いやられて、一人になってしまう。それは駄目だ。マカは俺みたいになってはいけないんだ。
だから俺は先輩の思惑にあっさりと乗った。むしろ、何十年にわたって抱いてきた狂気に似た先輩への執着を、一人の小さな女の子によって諦めることを誇らしくすら思った。ようやく肩の荷が降りた気がすらした


「刷り込みだったんだ」

それはあながち間違いじゃないのかもしれない
 
 
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