八百屋お七…この人物は幼い恋慕の挙げ句に放火未遂事件を起こし、それが後に浄瑠璃等芝居の題材となったことで有名である。

 

 

「私は神を信じています。が、それと同時に信頼してはいません。神に祈ってはいますが星に願ってはいないのです」
綺麗な顔がやはり美しく歪んだとき、あの馬鹿に似ているなと思った。
整っていて、緩んでいて、それでいて欠けている。脆さを兼ねている。いや、あいつが誰にでも似ているだけなのかもしれない。例えば、驚くぐらい真っ直ぐな、マカと同じように。
「誰のことを考えているか当ててみましょうか。」
死武専のとある一室で、俺は自分を組み敷いている無機質な目を睨む。かすかな光が相手の顔をとらえる。やれやれ、俺はどうして年下に勝てないのか。かといって年上に勝てるとは限らないけど。
「面白くないですね」
なんだよ、俺を押し倒してんだからもっと燃えろよな。そういう所が似ているんだ。
「シュタイン博士のことでしょう?」
「全然違えよ」
「嘘つき。ねえ、あなた、こういうの好きでしょう」
押し倒されることがか?冗談じゃない。
「狂気、のことですよ。まったくあなたはマゾヒストのようにこういうのを受け入れたがる。」
ふふ、と唇を歪めるその行為が妙に艶かしく写る
俺は何もいわないでいると、ジャスティンはかぶりつくように唇にキスをしてきた。
「泣かないんですね。怒らないんですね」
「騒いだらそっちはもっと喜ぶだろ。生憎、こういう奴らの扱いは慣れているんでね」
「ほら、シュタイン博士の事を考えてるじゃありませんか」
「なあ」
押さえつけられている腕は、依然として動かない。
「お前が憎いのは俺か?シュタインか?」
ジャスティンは何も言わない
「俺をどうにかしたってシュタインには近づけねえぞ」
「安心して下さい。私は甘くないですよ。あなたにすがらないし、何も求めない。」
自分に言い聞かせるようにジャスティンは言った
「お前にシュタインは渡さねえよ」
「お姫様が王子様を守るんですか、素敵ですね」
そういいながら、全く笑っていない。
「あなたの事、愛していますよ」
「慈愛とかだろどうせ」
ふふふ、とジャスティンが笑う
俺も笑う。
「一度は彼は我らの手に渡ったのです。陥落しました。だけど、奪ったのは確かに貴方なのですよ」
シュタインも似たようなこと言っていたな。まったくどいつもこいつも似てやがる。俺もあいつも、あいつもこいつも。
「なあ」
なのになんで伝わらないんだろう
「俺を傷つけても、あいつはこねえよ」

涙が、一筋、こぼれた。

それはどちらのものなのかわからない。



喉をつかえばあなたが零れ出で、溢れよう。これ以上知りたくなどない!
東京事変/修羅場
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