シュタデス←マカ
ただのシュタマカです

 

「先輩がいないと生きていけないのに」
やはり俺は先輩にどこまでも甘えていたんだと思う。

「優しくされる度、俺の魂が駄目になるんだ」
「どうして?」
「どうしても」
「あなたのいけない所は自己完結すぎる所だと思う」
あたしパパと博士は付き合っている。男同士で。最初にパパと博士の関係を聞いた時はすごくびっくりした。怒りもした。口を聞かない時期もあった。けれど、それよりも二人の二面性にもっとびっくりした。いつもはあんなに浮わついた笑顔のパパが刹那にみせる、見ているこっちが胸が締め付けられるような横顔の理由、普段はあんなに自由気儘に危ない事を口にするのににパパのことになるとすぐ弱くなる博士、どっちが子供なんだか。(タメ口になるのはそのためだろう)結局のところ永遠に続くと思われた氷河期のような反抗期を解いたのはその意外性を愛したからだ、二人分。
「このままだと二人して駄目になると思うんだ。」
「なんでパパも駄目になるの?」
「先輩は優しいから、俺の酷さを受けとめようとして傷つくんだ…でもわからないんだ、離れるべきなのか」
「だけどあなたの心の柔らかい所を触れるのはパパだけでしょう?」
「そうだね、だけど触れられすぎると駄目になってしまう」
「果実みたい」
と私が言った。
「桃なのさ」
「似合わない」
俺もそう思う、とシュタインは笑った
「いずれにせよそういう弱さを守ってくれる人は必要だよ。」
「そうだけど…」
「パパの事好きなんでしょう?」
「好きだよ」
シュタインの瞳が微かに揺れた。相談に乗り始めたのは放課後だったのに、いつの間にか日が暮れかけていた。
「私は、でも…」
肌寒さを感じて唇が少し震えた。
「何?」
「駄々をこねたり、我が儘をいったり、甘えていいと思う」
「俺はいい大人だよ」
「関係ないよ、たぶん。特にあなたはずっと寂しさを溶かすことができなかったから」
と私は言った。
「…君もそうしていいはずなのにね。その相手を俺が奪ったんだろうね。」
「あなたは私の知らないパパを見てるのね」
奪った、という言葉にパパはこの人のものなのだということを思い起こさせる。何故だか知らぬ間に涙が溢れていた。シュタインがそれに気付いて私の手を握ってきた。彼の手は外気に反してとても温かかった。
「…ごめん。」
「あなたが謝る事じゃないよ。それにこの事はもう和解したじゃない」
「それでも俺のせいで君は寂しさを自由に解放できなかった。周りにの大人に、きみのパパに無い物ねだりさえ出来なくしたんだ」
涙がこぼれた。どうして?だって許したはずなのに。愛したはずなのに。
「違う…っ」
そう言うと、博士は困ったように笑った。
「君は俺に似ているね。ほんの少しの部分だけど。」
シュタインの手が優しく私の頬に触れた。やはりひどく温かかった。
「私はパパを…あなたを…」
どちらも愛した。等しく愛さなければ。崩れてしまわないように。愛が、嫉妬に変わらないように。美しく釣り合い均整の取れたシーソーが、傾く…いやだ。

ああ、私はただあなたが笑ったり泣いたり悲しんだり、感動する瞬間を誰よりもそばで見たかっただけなのだ。

空は深い青に変化を初めていた。どこからか、夕飯の香り、温かい香りがした。
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