ただ事実を渡されても亡骸すら与えらないから実感というものがわかなかったのは、受け入れたくないということを抜きにしても無理のないことだと思う。
仕方なしに他者の悲しむ様子で自分も悲しむということは何だかおかしな感じだけれど、自分の中に溢れているわけのわからない感情に説明をするようで、安心する事ができた。そうか、自分は悲しかったんだと。

それが、まず第一段階。
少なくとも星に願えばいつか叶うなんてことを信じるには年をとりすぎて、ひょっこりと帰ってくるんじゃないかと思うにはその事実は悲しすぎた。
幼稚だと分かっていても何故と問いかけずにはいられなかった。彼の声を笑顔を、愛せずにはいられなかったように。
オズに預けた感情はそのまま持っていってしまって、ただすっぽりと欠落してしまっている。笑顔の作り方も正しい泣きかたも忘れてしまった。
不安定な日々を過ごしてそれから少しずつ、少しずつ日常から遠ざかっていった。誰も気付かないものだと思ったが、ブレイクだけは何か言いたそうな、僕を痛々しいものでも見る目をしていた
「あなたはいつまでそう呆けているんですか」
「主人を失ってその後どうすればいいか分かるわけもないです」
「死んだ人間について急いで考える必要はないですよ。大丈夫、ずっと死んでいる。心配しなくとも貴方はオズ君なしで生きていけます」
「オズ坊っちゃんはまだ死んでません」
僕がつむぐ言葉は伝わっていないのだろうか、オズがいないから?オズは大切な中継地点だったから。僕の言動をブレイクさんはぼんやりと見つめ、そして少しだけ、眉をひそめて一言

「はやく、戻っておいで」
それはとても優しい声だった

ちゃんと現実に帰れるだろうか。忘れることはできる。そうさ、望めば日常にだって戻れるんだ名台詞なんかなくとも。
そうすれば残像に胸を締め付けられることもないし、空耳に堪らなくなることもない、ないんだ。悲しむことも辛くなることもない。満たされることも、ないだけで。
inserted by FC2 system